アジア環太平洋研究叢書

 ベルリンの壁の崩壊から30年になろうとしている今日、世界全体としても、またその様々な地域においても、20世紀後半に形成された秩序や状態は激しく動揺している。世界と地域、国家と社会、いずれのレベルでも縦、横に入った亀裂が深まり、既存の秩序やあり方が融解する現象が共時的かつ共振的に起きている。しかもそれは、政治、経済、社会の位相に跨って進行している。

 今後の世界秩序の具体的な方向性やあり方について何らかの確信に基づいて多くを語ることが困難な状況において、我々は学問的探究を進め、21世紀世界の新秩序を構想していかなければならない。構想にむけては、世界レベルで覇権をめぐって争う能力を持つ大国の関係ならびにそれ以外の国々の発展と国際舞台での行動のあり方という二つの次元が複雑に絡み合って織り成される実践現場での多様な日常的営為を、注意深く、いわば鳥の目・人の目・虫の目をもって多角的に観察する必要があろう。そして、そこで紡ぎ出される制度──ある社会の成員によって、ある目的を達成するために正統と認められている了解・合意事項、行動定型、規範・ルール、慣習──を見出し、あるいは制度構築のための環境整備に貢献し、それらを丁寧に繋ぎ合わせて地域大、世界大の秩序形成へと発展、展開させなければならないだろう。それは、環大西洋世界で発展した既知のパラダイムを代替する「アジア環太平洋パラダイム」となるのではなかろうか。

 本シリーズは、以上のような展望の下に展開する学問的営為の軌跡を記し、21世紀世界の新秩序を構想することに少しでも寄与することを目指すものである。

第3巻 中山大将之著『サハリン残留日本人と戦後日本: 樺太住民の境界地域史』(国際書院、2019年2月)

 サハリン残留日本人とはいかなる経験をした人々なのか。境界変動は住民にいかなる影響を与えるのか。外交文書、市民団体資料、聞き取り調査を基に〈国境と国民の時代〉を住民の視点から再考する。

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第2巻 浜口伸明編『ラテンアメリカ所得格差論: 歴史的起源・グローバル化・社会政策』(国際書院、2018年8月)

 ラテンアメリカが抱える「構造的問題」としての“所得格差論”を前提として、その歴史的起源、グローバル化、社会政策を再検討し、政府と市民社会との連携・創造的発展を模索する。

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第1巻 村上勇介編『ポピュリズム」の政治学 深まる政治社会の亀裂と権威主義化』(国際書院、2018年4月)

 政党政治の力学を創造することが民主主義体制を発展させ、ポピュリズム勢力の台頭を抑制する道を拓くことに繋がる。本叢書は学問的営為の軌跡を記し21世紀世界のありようを追究する。

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